私たち日本人の毎日の食生活に欠かせない道具といえば「お箸」ですが、お椀など器づくりに携わる当社でも、 「漆塗りを施した小物」「漆器で食べ物をいただくときに必要な道具」として器と同様にお箸製品の企画、開発に 積極的に取り組んでいます。
塗り箸の誕生は、今から400年以上前(安土桃山時代)に海の町・若狭小浜(福井県小浜市)にて小浜藩の御用 塗師・松浦三十郎が存星(ぞんせい)という漆工芸の技法をヒントに「海底の様子」をデザイン化して考え出した のがはじまりといわれています。卵殻や浜辺で波に洗われる砂、貝殻などを漆で箸に蒔きつけ、十数回漆を塗重ね た層を丹念に研ぎ出し磨き上げるという、大変な手間と時間がかかる技法です。江戸時代には小浜藩主だった酒井 忠勝侯が完成されたその美しさにとても感動し「若狭塗」と命名、大名武家の間でのみ使用される高級品として珍 重されたようです。
現在、若狭地方が生産する塗り箸には、職人が時間と手間をかけて製作する伝統的な技法によるお箸とともに機械 を使った大量生産によるお箸があり、若狭地方は全国シェアで80%以上を誇る塗り箸の一大産地となっています。 当社では、同じ福井県の伝統工芸品として、若狭塗り箸の工房と技術協力をしながら越前の特徴を表現した新たなお 箸の開発に取り組んでいます。
塗り箸に限らず一般的にお箸にはマナーがあります。やってはいけないお話のマナーのことを「嫌い箸」といいます。見苦しくない正しい箸使いは食卓を楽しくし、料理をおいしくします。毎日の小さな繰り返しが一生の習慣になりますので、特に小さなお子様がいらっしゃるご家庭では、毎日の食卓で大人がしっかりと教えてあげたいものです。塗り箸を扱う当社でも、お箸を通じた食育の大切さについて日々考えながら取り組んでいます。今回、ここでは代表的な「嫌い箸」についてご紹介したいと思います。
「迷い箸」・・・・どの料理を食べようか迷い、料理の上であちこち箸を動かすこと
「寄せ箸」・・・・食器を箸で手前に引き寄せること
「刺し箸」・・・・料理に箸を突き刺して食べること
「指し箸」・・・・食事中に箸で人を指すこと
「渡し箸」・・・・食事の途中で椀や皿の上に箸先を向こうにして(人にむけて)箸を置くこと
「ねぶり箸」・・・箸についたものを口でなめてとること
「箸渡し」・・・・箸と箸で食べ物をやりとりすること
「二人箸」・・・・食器の上で二人一緒に料理を挟むこと
「たたき箸」・・・箸で茶碗をたたいてご飯などを頼むこと
「涙箸」・・・・・・箸の先から料理の汁などをぽたぽた落とすこと
「そら箸」・・・・食べようとして食べものを取ったが食べずに元にもどすこと
こうしてみると、大人の皆様も「ついやってしまったことがある」という方もいらっしゃるかもしれません。最近では日本料理ブームにあわせて外国の方も上手にお箸を使えるようになり、マナーについてもよく勉強されているようです。国際化の流れのなかで、ぜひ日本人としてお手本になるようにお箸のマナーは正しく身につけておきたいところです。
お箸の正しい持ち方はその家のしつけを象徴するマナーと言われています。また、親指と人刺し指、中指をたくみに 操りながら箸を動かし、食べものを「つまむ」という動作は脳の発達とも深い関係があることが研究により証明され ています。私たち大人は小さい頃から子供たちにしっかりと正しいお箸の使い方を教えていきたいものです。
正しいお箸の持ち方を効率的、効果的に教える方法にはいくつかあるようですが、一般的には「鉛筆法」という方法 が主流のようです。正しく鉛筆(ペン)を持つことが前提になるので、同時に鉛筆(ペン)の持ち方も上手になると いうメリットがあります。正しく美しい持ち方ができれば、手に持つお箸にもこだわりたくなります。お箸の作り手 である私どもとしても、お客さまにはぜひ正しく美しい箸の持ち方にこだわって「塗り箸を選ぶ楽しみ」を持ってい ただきたいというのが願いです。
イラスト: (資料協力:ぬり箸工房 ふない)
お箸の長さもいろいろですが、手に馴染んでもっとも使いやすい長さの目安は「一咫半(ひとあたはん)」と言われています。 「咫(あた)」とは親指と人差し指を90度にひろげたときの指先と指先をつないだ長さです。さらにその半分を足した長さを 「一咫半(ひとあたはん)」といいます。お店のお箸売り場などでも長さの説明を見かけますが、私どもではご自身の一咫 (ひとあた)を測って1.4倍したサイズ、かつ男性で24センチ、女性で22センチまでのお箸にすることをおすすめして います。このほかにも「身長の15%」とか、「靴のサイズマイナス2センチ」などの目安もあるようですが、実際に手の大 きさは身長や靴のサイズに関係なくバラつきがあること、お箸の太さや形状によって持ちやすさが変化することから、最終的 には実際にご自身の手で持って選んでいただくことがもっともよい方法といえます。使う方の持ちやすさにこだわるなら、贈 り物としてのお箸は少々難しいアイテムといえるかもしれません。
当社では、これからの取り組みとして「手作りマイ箸教室」を企画したり、サポートさせていただき、お箸の正しいマナーや 自分にあったお箸について楽しく学び、子供から大人まで塗り箸に親しんでいただく機会をご提供していく予定です。
(山本泰三)