今月当社では、「佳年重展(よきとしかさねるてん)」という漆器販売イベントを東京のお店で開催しています。産地メーカーの私共が直接個人のお客様に対して漆器をご案内する毎年恒例の企画ですが、お立ち寄りいただくお客様からはその漆器の「用途」について多くのご質問をいただきます。「この器にはどんな料理を盛りつけるとよいか」「お正月以外にもつかえるものを探している」などです。近年の住宅事情やライフスタイルの変化にともなって一つの器がいろいろな用途で、かつ正月に限らずいつでも使えるもの(一器多用)を選ぼうとされる傾向を強く感じます。
従来からの伝統的な漆器の商品名はお椀なら「吸物椀」「雑煮椀」「煮物椀」とお椀に盛りつける料理の種類がわかるようなネーミングになっています。一見親切なようですが漆器と疎遠になりつつある現代生活においては、「吸物椀」と名前がついていることで「お吸物しか使ってはいけない」、「お吸物のためだけの器はいらない」という感じで、お勧めしてもお客様に拒絶されてしまいます。
実際のところ吸物椀という名称でもお吸物以外の用途に活用していただいて全く問題ありません。吸物椀の特長は「蓋があること」です。蓋によって温かいものが冷めにくいというメリット以外に、蓋をあけるときの中身に対する期待感や、蓋を裏返して使えば皿になり別の器として使えることなどが利点としてあげられます。また、蓋には表にも裏にも絵柄をいれることができるのでデザイン次第で魅力的な特徴を出すことが可能です。現代生活において今後お客様に積極的に漆器を使っていただくためには、製品をつくる産地メーカーの立場からもその漆器の機能性と幅広い用途、デザインの可能性をトータルで提案することが求められていると考えています。
「佳年重展&アウトレットセール」の詳細はこちら
重箱やお椀など一般的にお料理を盛り付ける器というイメージが強い漆器ですが、当社では漆器に花を生けるなど、通常の用途以外の使い方をご提案しています。華道家やフラワーデザイナー、盆栽専門家の方々の協力により、これまで展示会などを通じて何度か漆器に花を生けるご提案をしました。奥深い自然な漆の色合いが植物をより美しく引き立たてて、お客様にも大変ご好評でした。特に日本人の感覚には「漆器はこう使わなければならない」というイメージがありますが、自由な感覚をもたれている外国の方などは、屠蘇器セットの銚子の口に花を挿してセンス良く飾られているという話をお聞きします。
漆には古くから「菌の抑制作用あること」が言い伝えられており、このことは化学的検地からも立証されています。こうしたことは漆の器に飾る植物にとっても良い面があるといえます。お正月だけに使う製品というイメージがある重箱や屠蘇器ですが、ぜひ新しい使い方で毎日の生活に生かしてみるのはいかがでしょうか。
漆器に合う料理のイメージとしては一般的には「和食」です。機能面を考えても金属のナイフやフォークを塗り物の上で使用すると傷がつきやすく、 お箸を使う和食のほうが漆器にも優しいといえます。
しかしながら、漆塗り独特の黒や朱色は白の器をベースとした洋食の世界には無い魅力があり、特に日本的な要素を取り入れたイタリアンや フレンチでは新しい提案として注目されています。
当社でも洋食にあわせやすいデザインの重箱を使ってイタリアンやフレンチを盛り付けるイベントを開催したところ、お客様から大変ご好評をいただきました。 シェフからは「黒の器は料理を引き立てる力があり、少しずつ盛り付けるとさらに美しい演出効果がある」「朱の色がテーブルの雰囲気づくりに効果的」 などのお話をいただきました。
あまり使わない印象がある「重箱の蓋」も、お皿として有効活用しました。
洋食の世界でも「漆」の価値を広げていくことは、今後の漆器づくりには不可欠な視点であると考えています。
私たちメーカーとしても洋のテーブルにもあわせやすい製品づくりに積極的に取り組んでいます。
漆器は年に1回、お正月だけというご家庭も多いかと思いますが、ぜひ毎日の洋のテーブルでも漆器を使ってみてはいかがでしょうか?
■過去に開催したイタリアンのイベントについては以下をご参照ください。
http://www.yamakyu-urushi.co.jp/news/event/20110302-2/
http://www.yamakyu-urushi.co.jp/news/new/20080521-1
http://www.yamakyu-urushi.co.jp/news/event/20080423-1/
最近の住宅事情やライフスタイルの変化をうけて食器を保管するスペースが限られるようになり、食器全体をみるとスタッキング(積み重ね)ができるなど省スペースに貢献できる器が選ばれる傾向にあるようです。またこうした流れを背景に食器を狭い棚にしまいこまないであえて目に見えるところ(=取り出しやすいところ)にオブジェとして置いておくデザイン性重視の製品も増えてきました。
食器のなかでも特に漆器は「保管が面倒」というイメージが強いため、こうした時代の変化を踏まえて今後の商品開発をすすめていかなければ、どんどん漆器離れが進んでいく可能性があります。
また、お客様によっては「漆器を使わないときは新品と同様に和紙に包んで大切に箱の中にしまっておかなければならない」という考えをお持ちの方も多いかと思います。実際のところ漆器は漆面と空気とが触れることで自然に漆の硬化が進み、より丈夫で色も深みを増してくるなど、箱の外に出しておいたほうが漆器にとって良い面があります。こういったことも産地メーカーとしてお客様に伝えていく必要があります。
当社の「Kasaneシリーズ」は、積み重ねができることや使用しないときはオブジェとして飾るなど器以外の用途でも楽しんでいただける要素を持たせて開発した商品です。日々の生活の中に是非とも漆製品を置いて、漆による独特の癒し空間を作られてはいかがでしょうか。
(山本泰三)
■その他「Kasane」シリーズの詳細はこちら