重箱のお直し Vol.173~176

「修理方法を選択する」

木製漆塗りの漆器のメリットはお直しができることです。今回は最近の具体的な事例をもとに重箱の修理についてご紹介します。
今回ご紹介する重箱は木製漆塗りの三段重で、箱や包み紙がきちんと保管されていて和紙の包み紙には「会津塗り」という表示がありました。また重箱の表面には沈金と呼ばれる彫りの加飾技法で模様が施されていました。
当社は「越前塗り」の産地ですが、損傷部分をチェックすれば塗りの技法や材質がおおよそわかるため、他の産地の漆器についても修理をお受けしています。実際には今回のように産地表示が残っていないケースやお客様自身でも産地がわからないというケースがほとんどで、当社で修理をしてみて産地が判明するというケースもあります。
お客さまにとって最も気になるところは「いくらで修理できるのか」という点です。当社では木地、塗装、加飾の損傷具合を細かくチェックし、お客様のご予算をお伺いしながら、最終的に新品同様に全体まで塗り直し修理をするのか、損傷した部分のみ修理をするのかなど修理パターンによってお見積もりをご提示します。お客様にご納得いただける修理方法が決定した後、納期についてご説明し、お直し作業に着手します。

20090320

「木地修復に不可欠な刻苧漆(こくそうるし)」

漆がはがれて下から木の素地(木地)が見える状態の場合、木地そのものに割れやひび、欠けなどの傷みがあることが想定されます。こうした深い傷の場合は塗り直し作業の前に木地を修復する作業を行います。
最初に漆がはがれかかっている部分や浮いている部分を小刀などで完全に削り取ります。次に割れ目や欠けがある木地部分を細く彫って「刻苧漆(こくそうるし)」で埋めます。漆そのものには接着力がありますが、木地を細く彫ることによって接着力をより高める効果があります。
刻苧漆とは、生漆(きうるし)と米糊(こめのり。ごはん粒をつぶしたもの)をよく練り合わせたものに木粉を混ぜ合わせたものです。木粉は、栃や欅(けやき)等お椀の木地を作る際にできるとても薄いカンナ屑を手で揉んで非常に細かく粒子状にしたものを使います。なお粒子状にならない材料(例えば杉の木屑など)は漆と混ざりにくく、刻苧漆には適しません。
刻苧漆で傷口を埋める作業は2~3回繰り返します。1回目は生漆の割合が多い刻苧漆を使い2回目、3回目と回数が増えるごとに生漆より木粉の割合が多い刻苧漆を使います。生漆が多いと漆の硬化作用により表面が強化され、木粉が多いと粘土のように成型しやすくなる性質があるからです。最後の刻苧漆が乾いたところで平らにカンナで削ってさらにペーパーで磨いで木地の修復が終了となります。このように刻苧漆は欠けたり割れたりした木地を見事に修復する大切な役割を担っています。

20090327

「修理による新品以上の価値」

刻苧漆(こくそうるし)を使って木地を修復し形を整えたあとは、錆漆(さびうるし。生漆と砥の粉を練り合わせたもの。)で下地加工を行い、その後は中塗りから上塗りと漆を重ね塗りする通常の工程で、「塗り」に関する修理を完成させます。
全面塗り直しの場合は、修理部分を含めて全ての面を一緒に塗り重ねていくため、修理した部分が全くわからない新品の仕上がりになります。一方、部分修理の場合は、修理箇所周辺の漆の色やツヤが既に自然に変化していることが多く、修理したことを完全に隠すことは難しく、できる限り境目が目立たないよう職人による丁寧な磨き作業で仕上げます。
なお、全面塗り直しの修理は、修理前の上塗りが下地の役割を果たすことになるため、新品の製品よりも漆が厚塗りになります。漆の温もり感が一層向上し丈夫さも増すことから、考え方によっては新品以上の価値があるといえるかもしれません。

20090403

「加飾製品を修理する時の留意点」

今回お直ししている製品は彫刻刀(沈金刀・ノミ)で模様を彫る「沈金」と呼ばれる加飾技法が施された製品です。依頼主のお客様とご相談し、加飾部分については部分修理を行うことになりました。周囲の彫りの絵柄に合わせて、沈金専門の職人が修理箇所の模様を彫って完成させます。
もしも全面塗り直しをする場合は、事前に絵柄を正確に紙などに写し取って、工程や色彩を細かく記録したうえで、いったん加飾を消してしまいます。沈金の場合の消し方は、彫刻刀で彫った模様(彫り跡)を錆漆で埋めて平らにします。逆に蒔絵の場合は絵柄が盛り上がっているので、砥石(といし)やサンドペーパーで研いで表面を平らにします。上塗りまで仕上がった後、写し取った絵型を元に沈金や蒔絵をつけて完成となります。加飾の工程が判定できない製品や、作家の作品など簡単に真似ができない優れた技術で完成した製品については、全面塗り直しをするとその後の絵柄の印象がかわってしまう恐れがあります。特に加飾製品を修理する場合はお客様と修理方法について十分な話合いをした上ですすめていくことが大切です。(山本泰三)

20090410