漆器に金色の絵柄をつけたり、表面を金色に塗る場合、 本物の金を使わずに金に似た材料(代用金)をつかうことがあります。 代用金の最大のメリットは安さです。一つの器に金色を使う量が多ければ多いほど、 本物の金か代用金かによって同じ絵柄で相当な価格の違いがでます。
代用金にはいろいろな作り方や特徴があります。 銅と亜鉛の合金である真鍮(しんちゅう)粉を使った代用金は、 金色の絵柄の印刷や塗料としてよく使われます。本物の金に比べると少し黄色味が薄く、 白っぽい金色という感じです。
他に、光沢感や質感が金に近い、銀に着色する方法があります。 ただし、金と違って銀は黒ずむなどの変色の可能性があります。 銀に比べて変色が少なく価格も安いアルミの粉に着色する代用金もありますが、 輝きはキラキラというよりは、暗く鈍いものになります。
代用金は、本物の金と同様に器に豪華なイメージをあたえる効果があります。 樹脂製品など安い素材の漆器製品の加飾には、コストを抑えるための有効な工夫といえます。 ただし、どんなに代用金の技術が進んでも、 そのすばらしい質感を維持しながら変色や錆びがまったく発生しないという 非常に優秀な金属である本物の金には、絶対にかなわないというのが現状です。
本物の漆の魅力は、天然素材ならではの深い艶による高級感、 しっとり、ふっくらした色合い、経年変化による独特の風合いといったところにあります。 防腐、防水作用により木製の素材を強化するといった目に見えない効果もあります。
一方で合成塗料には、天然漆のような「変化による効果」はあまりみられませんが、 紫外線や熱などによる変色がおきにくいなど、「変化しないこと」による強みがあります。
また、漆は茶色っぽい生漆に顔料等をまぜて色をつくるため、 パステル色や純白など薄めの色をつくることが困難ですが、 合成塗料では自由に色をつくり出すことができます。
つくり手の立場においても、ハケやヘラを使う漆塗りに比べて、 スプレー塗装により大量生産が可能で、高温により速く乾燥させることができるので作業効率が良く、 コストダウンが図れます。漆と異なり、かぶれることや湿度や温度などの作業環境を気にする必要がなく、 職人にとって扱いやすい塗料です。さらに木製よりも安価な「合成樹脂素材」との相性がよく、 結果的にお客様にとって「お求めやすい価格の製品」をご提供できることになります。
「合成塗料」は、スプレーガンとよばれる機械を使って噴きつけながら器に塗ります。 塗料と空気を一緒にスプレーガンに取り込み、同時に噴出させ、霧状になった塗料を器に付着させるという方法です。 スプレーガンは口径の大きさによって様々な種類があり、作業効率などを考慮しながら製品の大きさにあわせて使い分けます。
また、製品の形状によって使用する合成塗料の硬さを変えます。 例えば、テーブルマットのように面積が大きく平らな商品は塗料の硬さを若干柔らかくすることで、 噴出速度や噴出量が増し、すばやく塗ることが出来ます。 弁当箱など箱型の形状や、表面にあえて凹凸をいれた製品(線筋など)の場合は、塗料が垂れたり、 凸凹が埋まってしまわぬよう、逆に若干硬めの状態の塗料を塗ります。
塗料の硬さはその日の気温や湿度によって変わるため、同じ分量で配合しても同じ硬さにならない難しさがあります。 製品の大きさや形状によってスプレーガンを使い分けたり、 塗料の硬さを調整する塗装のノウハウは、全て職人の「勘」や「長年の経験」によるものです。
合成塗料の役割には、漆では出せない様々な色 (純白やパステル色などの薄い色、金や銀などのメタリック調の色など) を表現できることに加えて、製品を強化したり、使いやすくしたりすることがあり、 それを主な目的とした合成塗料があります。
強化を目的とした合成塗料は、最後の仕上げに塗ることによって製品をコーティングして、傷がつきにくく、 また長く使えるようにします。旅館や飲食店など業務用漆器ではこうした強化加工を施す場合が多くみられます。 顔料が入っていない硬い性質のクリア(透明色)塗料が主に使われます。他に、雨、 風があたる屋外に常時設置するような建材などに塗る場合に、より防水性を高めるための合成塗料があります。
また、塗ることによって使いやすくする合成塗料があります。 例えば、食器を乗せて運ぶときに使う「お盆」の表面に塗って、 器をすべりにくくする「ノンスリップ加工」用の合成塗料がそれにあたります。
(山本泰三)