美術工芸品といわれる漆製品、陶磁器、染織品、金工品などの表面には、さまざまな伝統文様(もんよう)が施されています。文様は英語でいうと「pattern(パターン)」であり、「基本になる形」という意味があるようです。(並木誠士監修「日本の伝統文様」参照)
文様には、鶴、千鳥、亀などの身近な動物、松、竹、梅、桜、楓、菊、桔梗などの植物、流水や波など自然が生み出す文様、縞や格子、市松や網代(あじろ)な どの幾何学的な模様、雪、雲、日月など気象や天空のものなどさまざまです。単純な装飾としてのほか、おめでたい意味を持たせた象徴的なもの、遊びごころを 持たせたものなど目的もいろいろで、その時代の流行もあります。配置の仕方によって「散らし」や「尽くし」、加工の仕方で「丸」や「捻(ね)じ」、流水と 組み合わせた絵柄の「流し」等があり、表現方法によって印象がかわります。
当社では従来から蒔絵や沈金といった加飾技術を使って、文庫やお茶道具の棗(なつめ)など高級漆器を中心に伝統文様を施した製品をつくってきました。最近 は美術工芸品としての漆器のニーズが低迷していますが、一方で日本が誇るすばらしいデザイン「伝統文様」に目をむける動きが高まりつつあるようです。
伝統文様には「吉祥文様(きっしょうもんよう)」とよばれる縁起がよい動物や植物、物品などを描いた図柄があります。慶事の調度品、お正月の道具などに施されるほか、縁起を担げるようにと普段使いやギフト用の漆器製品にも見られます。
幸運を運ぶ鳥文様は古くから世界各地で縁起のよい文様として使われていますが、鶴が松の枝を加えて飛ぶ「松喰鶴(まつくいづる)」は、千年の寿命を持つ鶴に同じく長寿の意味を持つ松というの日本独特の組み合わせで、奈良時代や平安時代から広く好まれた「長寿」の吉祥文様の一つです。同じように亀、梅、竹などと組み合わせる場合もあります。
前回写真でご紹介した「扇」は、末広がりの形状が「繁栄」の吉兆として縁起のよいものとされています。また「打出の小槌」「宝珠(望むものを意のままに出す珠)」「巾着(お金やお守りを入れる袋)」「隠れ笠(姿を消して身を守る笠)」といった宝物を集めた「宝尽くし」は縁起のよいモチーフを集めたもので「富貴」の意味をもたせた吉祥文様です。器に施されたさまざまな伝統文様の意味をしっかり理解すると、器ともより一層楽しくお付き合いができることでしょう。
写真の「宝尽くし」を施した化粧用容器の詳細はこちら
<参考資料>並木誠士監修「日本の伝統文様」
身近な植物をモチーフにした伝統文様には、季節感を表現する効果があります。春を迎えるこれからの季節、梅や桜は春をイメージする絵柄です。一方で、菊、竜胆(りんどう)、桔梗(ききょう)や撫子(なでしこ)等の秋草や楓(かえで)は秋をあらわします。春と秋をあらわす植物を同じ絵柄の中に配置することで「春秋」という模様になり、季節を問わず1年中お使いいただける絵柄になります。また、桜といっても「八重桜」「小桜」などデザインも多様で、縁起のよい柄として人気がある唐草文様と組み合わせたパターンも多くみられます。
自然でやさしい印象を与える植物の絵柄が施された漆器は、特に女性のお客様に人気があります。また、絵柄によって季節感を表現するという考え方は四季のある「日本」らしく、特に桜や菊などの文様は、外国のお客様にも人気がある絵柄です。漆の器に描かれた植物をご覧になり、季節や日本を感じてみるのも器の楽しみ方の一つかと思います。
※写真・中央 化粧用容器「桜尽くし」(㈱三善との共同開発商品)の詳細はこちら
※写真・右 「いとをかし・春」シリーズ(当社製品)の詳細はこちら
「縁起を担ぐ」「季節感を与える」など様々な意味をもち、古くから日本人に愛されてきた伝統文様ですが、ライフスタイルが変化し洋風化がすすむ現代においても、使い方、組み合わせ方によってはしっかりマッチして私達の心を豊かにするデザインであると考えています。
先般、当社では舞台用などプロ向け化粧用具を扱うメーカー㈱三善とともに伝統文様を施した化粧容器を開発しました。元は無地のプラスチック素材容器でしたが、朱、黒、洗朱で漆塗りを施した上に、桜尽くし、宝尽くし、花尽くし唐草という3種類の絵柄をモダンにアレンジしました。専門家の意見をとりいれながら、
・ ベースとなる漆の色を生かす絵柄と色を使用して全体に高級感を出すこと
・ 絵柄の意味やストーリーによってお客様に永く喜んで使っていただくこと
にこだわった製品です。まるで御化粧をしたかのように、プラスチック素材の容器が一変し、高級感のある容器に姿をかえることができました。
日本人が永く愛してきた伝統文様ひとつひとつは大変デザイン性が高く、また日本人の遺伝子的にも好きになる要素があります。よって、絵柄を施す道具に対してどのような意味をもたせ、色や配置をどうするかなど総合的にデザインすることで現代生活のなかでも「使ってみたい」と思うデザインへと変化します。漆器とは奈良・平安時代からご縁のある「伝統文様」を現代生活が求めるデザインにどういかせるか、漆器の復活をめざす私どものテーマのひとつであると考えています。(山本泰三)
※こちらの製品は、以下の展示会にてお手にとってご覧いただけます。
・ 本日より3日間開催!「NIPPON MONO ICHI」3/13~15 新宿パークタワー3F(詳細はコチラ)
・ 山久漆工個展「漆×美 展~コラボレーションによる新たな価値創造」5/14~26 新宿パークタワー6F